11.夫の留守に


夫の留守に

「今日も図書館で勉強?」

 

「休館日なんです」

 

そう言って、裕之はためらうように足元に視線を落とした。

 

メロンを持ってきただけじゃなくて、なにか由美子に話があるみたいだ。

 

由美子は、ふと母親のような気持ちになって、聞いてみた。

 

「どうかしたの?」

 

「今日も、暑くなりそうですね」

 

裕之の返事が、まるで大人の挨拶のようで可笑しいと由美子は思った。

 

「今日は家で勉強?」

 

「ええ、それが、エアコンが壊れていて、修理にくるのが午後なんです」

 

(ああ、それで、メロンを持ってうちにきたのね)

 

少年のかわいい行動を微笑ましく思いながら、裕之が期待しているであろう言葉をさりげなく言ってあげる。

 

「エアコンが直るまで、うちで勉強してたら?」

 

「いいんですか」

 

中学三年生の裕之は体格はもう大人と同じくらいになっていても、顔には子供らしさが残っている。

 

二十八歳の由美子からみたら、自分の子供と思うにはちょっと大きいけれど、大人の男にはまったく見えない。

 

夫の留守に他人を家に上げることに対する警戒心は働かなかった。

 

勉強道具を持って出直してきた裕之は、リビングのテーブルにそれを広げて勉強を始めている。

 

由美子は洗濯物の残りを干してしまうと、風呂の掃除を始めた。

 

(あっ、いけない。またTシャツを濡らしてしまったわ。お風呂の掃除って苦手なのよね。濡れたついでにシャワーを浴びてしまおうかな)

 

いつもは掃除が終わってからシャワーを使うことにしている由美子だったが、今日はリビングで勉強している裕之の邪魔になるだろうと、掃除をしていなかった。

 

仕事をしてたときは休みの日にしか掃除機をかけなかったのに、毎日家にいると義務のように感じて家事の手抜きができない。

 

(専業主婦も、それなりに大変なんだわ)

 

今まで思いもしなかったことに気づかされる由美子だった。

 

熱めのシャワーを頭から浴びてシャンプーもしてしまう。

 

(そろそろ美容院に行こうかな。髪がうっとおしくなってきたわ)