10.不倫の共犯者


不倫の共犯者

「なあ、ほんとにしばらく会えないのか?」

 

「うん、だって、勉強に専念しなくちゃ」

 

「一緒に勉強する約束は?」

 

「ごめん、田辺クンといると、あたし勉強どころじゃなくなっちゃうから……」

 

里沙のかわいい唇にもう一度だけキスする。

 

大きな瞳から涙が一滴だけ、ポロリとこぼれおちた。

 

「わかった、俺もしばらく受験勉強に専念するよ。

 

そのかわり、ふたりとも合格したら……」

 

「うん、ふたりとも合格したら、そのときはいっぱい、いっぱい、里沙のことかわいがってね」

 

社宅と会社は歩いて五分。

 

由美子の夫がでかけるのは八時すぎだ。

 

真夏の猛暑は、すでに始まっている。

 

洗濯物をベランダに干しながら由美子は考えていた。

 

(ここは三階だから大丈夫よね。ベランダに干してしまおうかしら)

 

近所の主婦に下着泥棒の話を聞いてから、自分の下着を外に干すのをためらってしまう。

 

昨日、図書館に行くときにワンピースの下に着ていた純白のランジェリー。

 

ベランダの向こうは社宅に隣接した公園になっていて見晴らしがいい。

 

(こんな昼間に、まさか、大丈夫でしょう)

 

由美子は純白のブラジャーとパンティをベランダに干した。

 

いちおう、タオルとタオルのあいだに隠すようにして。

 

ピンポーン!

 

(こんなに早い時間に誰かしら?)

 

まだ午前中の九時前だ。

 

「あの、おはようございます。隣りの……」

 

「あら、裕之君」

 

玄関ドアの前に立っていたのは隣りに住む部長のひとり息子、裕之だった。

 

「昨日は、どうも」

 

「わたしのほうこそ、図書館の場所を教えてくれてありがとう」

 

「なにか本を借りましたか?」

 

「身分証を持ってなくてカードが作れなかったから、また今度借りるわ」

 

「気がつかなくて、すみません」

 

「そんなこと、裕之君のせいじゃないのに」

 

由美子が微笑むと、裕之も笑顔になった。

 

(笑うと、小学生の頃の面影があってかわいいわね)

 

「これ……よかったら、食べてください」

 

裕之が下げているスーパーのビニール袋に入っていたのは、立派なマスクメロンだった。

 

「どうしたの?」

 

「貰い物のうちのひとつなんですけど、今、うちは父とふたりだけなんで食べきれないんです」

 

(父とふたりきりって、部長の奥さんどうしたのかしら?)

 

「うちは部長さんにお中元贈ってないのに、逆に頂いちゃったら、うちの人に怒られるかしらね」

 

「大丈夫ですよ、俺、黙ってますから」

 

共犯者めいた、いたずらっぽい笑顔が少年らしくてかわいい。

 

(わたしにも、いつかこんな子供ができるかしら)